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『燃えるゴミ』

 ホーホーとフクロウが鳴き、ヒィヨヒィヨとトラツグミが鳴く。木々は擦れ合い、ザワザワと山全体を震わせる。
 奇々怪々とした雰囲気を漂わせる森の中からは、妖怪が出てきても不思議ではないと思う。
 もし周囲から物音がしたら、飛び退ける体があれば飛び退いているはずだ。
 そんな深山の中に僕はいる。いや、捨てられたというべきか。
 不法投棄――巷では問題になっているらしい。まったくその通りだ。
 邪魔だったから、といって捨ててよいのか? 当然のことを当然のようにできない大人が増えている。
 まったく人間というのは恥ずかしい。一部の低俗な輩が全体の評価を貶めるのだ。
「……」
 環境汚染だ何だと、とやかく言うつもりは無い。捨てられる方の気持ちになって欲しい、と訴えたい。
 僕はいつもの様に空を眺めながら、不満の思いを馳せてみた。
「ねぇレンジ。また空を見てるの?」
 僕の名前はレンジ――電子レンジのレンジだ。安直な名前だがとても気に入っている。
 話しかけてきたのは冷蔵庫のリザだ。
「なんで空を見てるの?」
 リザは不思議そうに問いかけてきた。何と答えたらよいものか……。
 僅かばかり逡巡した後、僕は答えた。
「それは説明されるよりも見た方がいいと思うよ」
 僕の答えを受けて、リザは空を眺める。
 空には満天の星が浮かんでいる。
 存外近くに感じられる輝きだが、届くはずはない。理由は、距離が離れていることと、既に存在していないかもしれないからだ。
 その星たちの寿命が終わっているか、僕たちには定かでない。輝きは幾星霜を超えて地球に届く。
「綺麗ね……」
 リザは星を眺めて恍惚とした声を上げた。だが、その声はすぐに冷淡なものへと変わっていく。
「私たちとは正反対」
 嘲笑とも言える声でリザは呟く。
 星から目を反らし、こちらを見つめるリザの目は冷めている。
「そうでもないさ」
 僕は冷めた思考回路のリザがそう言うだろうと思って、ある程度は予測をつけていた。
 あとは……タイミングが合えばいいのだが。
「どうして?」
「それは空を見ていれば分かるよ」
「……ふぅん、さっきからそればっかり。壊れたラジオみたい」
 少しつまらなそうに言いながら、リザはもう一度空へ目を向けた。

 一時間後。

「…………」
「…………」
「……ねぇ、まだ?」
 少し僕の中で焦りが生じ始めた。まだ来ないのか、と焦燥に駆られてはいるが、平静を保ちリザをなだめる。
「いいから、見ていてよ」
「……分かったわよ」
 早く来てくれ。間に合わなくなる。一つの不安因子により、僕はそわそわしていた。
 その不安因子とは、西の空から闇黒の雲が流れてきている事だ。それは次第に空全体を覆ってゆき、一欠けらの灯火も残さないだろう。
 雲の流れは速く、空全体を覆い尽くすのも時間の問題だろう。
 まだ来ないのか。
 祈ることしかできない自分に内心で舌打ちしながら、空を睨みつける。
 不安に苛まれる中、空に一筋の光が架った。その一閃が鏑矢となり、次々に閃光が頭上高くを通り過ぎていく。
 ……やっと来た。安堵の息を吐き、胸をなでおろす。
 力強く光が尾を引きながら、夜空を彩っていく。
「あ、これって……」
「そう、流星群だよ」
 一瞬だけリザは笑った。その顔を見て、少しだけ誇らしげな気持ちになった。
「綺麗だろ?」
「そうね。でも、それを眺める私たちはとても滑稽ね」
 クスッと楽しげにリザは白い歯をこぼす。
 冷たい言葉を吐き続けるリザだが、彼女なりに楽しんでいたようだ。
「あれもゴミなんだよ」
 宇宙に捨てられた衛星などが、地球に引かれて落ちてくる。その時に、最後の命を散らさんとばかりに輝きを放つ。
 それが流星だ。
「ふぅん……。けれど私たちに届かないことに変わりないわ」
 相変わらずの冷めた台詞。
「荒んでいるなぁ」
 つい、口を突いて出てきてしまった。
「余計なお世話」
 リザの声音はむっとしていた。
 だが、ちらりとリザの顔色を窺って見ると、怒っている様子も無く一安心する。
「あなたも現実を見なさい」
 諭すように、リザは述懐する。
 そんな現実ならクーリングオフしてやる。もう一度、家電として動きたい。夢を捨てるのは愚者の逃げ道だと、僕は思っている。
 隣でリザのため息が聞こえる。
「いい? 私たちは役目を終えたの。あとは退廃してゆくのみ……。二度と輝きを放つことは無いわよ」
「本当にそれでいいのか?」
 僕の一言に、リザは顔に影を落とす。
「仕方がないのよ。諦めなさい」
 二の句を継ごうとしたが、出来なかった。リザもどうやら好きで冷めた考えをしている訳ではないようだ。
 ふっ、と僕に影が作られた。いつの間にか僕の頭上まで雲が覆っていた。
 そこからは刹那の間だった。
 黒雲が空全体を覆い隠す。
 そしてその雲により、星もリザも自らの体も闇に落ちた。
 見えるものが皆無の本当の暗闇。
 その中でも、いつもの癖で僕は空へと目を向けてしまう。
 相変わらず、何も見えないけれど。
「ねぇ」
 右隣から、リザの声が聞こえる。
「なに?」
「もしかして、まだ空を見てる?」
 言い当てられて、驚きに声が詰まった。
「そうだけど、なんで分かった?」
「ん? 何となくよ」
 リザの第六感はものすごく発達しているのだろう。
 それとも僕の行動が読みやすかっただけなのか。
「何も、見えないわね……」
 どうやらリザも空を見ているらしい。
「そうだね」
 僕のその一言に、リザが落胆したように感じた。……何も見えないので、これは僕の感なのだが。
 思わず僕の口から言葉が飛び出る。
「でも、僕は晴れると信じているよ」
 相変わらず空は何も見えないが、黒雲が僅かに薄らいでゆく気がした。
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想万 桜子

Author:想万 桜子
20歳、大学生です。

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